理事長挨拶

日本小児精神神経学会 理事長のご挨拶

日本小児精神神経学会
理事長 宮本信也

日本小児精神神経学会は、昭和35年(1960年)に小児精神神経学研究会として発足し、平成4年(1992年)に学会となり、現在の日本小児精神神経学会となりました。設立から50年以上が経過し、小児の発達や心の問題に関する学会としては、わが国でも最も長い歴史を持つ学会の一つです。

医学の進歩とともに疾病構造が変化することは、感染症を中心とした急性疾患が医療の対象の中心だった20世紀前半から、慢性疾患や悪性疾患が中心となった20世紀後半、そして、遺伝子・分子レベルの異常が対象となりつつある21世紀の状況を見れば明らかなことでしょう。

精神の問題、心の問題の構造変化は、単に医学の進歩だけではなく、時代・文化の変化の影響も強く受けるものです。子どもの心の問題に関しても、かつては、発達障害といえば知的障害や知的障害を伴う自閉症の話題が中心でした。子どもの神経症という視点で論じられたのは、チックや夜尿や夜驚など、現在では神経疾患や心身症の視点で論じられるものが中心でした。行動問題として取り上げられた中心は、今では、医療機関を最初に受診することがほとんどなくなった不登校の問題でした。

こうした状況は、1980年代より変わり始めました。高機能自閉症やアスペルガー症候群、ADHDや学習障害など、知能障害のない発達障害に関する関心が、医療のみならず教育・心理・保健や福祉などいろいろな領域で高まり出し、本学会でも知能障害のない発達障害に関する発表・議論が増加してきたのです。

さらに、もう一つの大きな変化が1990年代にありました。子ども虐待に対する関心の高まりです。1996年には、日本子ども虐待防止研究会が設立され、子ども虐待に対する社会の認識も高まり、本学会における子ども虐待関連の発表も増加することになったのでした。

このような変遷を経て、現在、日本小児精神神経学会では、発達障害と愛着障害が大きなテーマとして議論されることが多くなっています。しかしながら、もちろん、本学会が対象とするのはこの2つに限定されるものではありません。小児精神神経学は、字義通りにとらえるならば、小児の精神と神経の問題を広く対象とするといえます。しかし、日本小児科学会の分科会としての本学会の立場は、「精神」の問題として主な対象とするのは発達と行動の問題であり、「神経」の問題として主な対象とするのは神経学的異常や神経疾患に伴う発達や行動の問題である、といえるでしょう。

小児の発達と行動の問題は、医療だけの対象ではありません。心理、教育、療育、福祉、保健など多彩な領域でも取り扱われる問題です。それどころか、医療よりもそうした領域の方が中心となって対処されることも少なくありません。本学会は、小児の発達と行動の問題に対する適切な支援は、これら関連領域が連携することで達成できると考えるものです。実際、本学会の会員にはこうした多様な分野の方々が多くおられます。

日本小児精神神経学会は、日本小児科学会の分科会としての立場を維持しながらも、多職種が連携できる場としての意義を認識し、小児の発達と行動の問題の研究と臨床を通じて、すべての子どもたちが健やかに成長発達することに貢献していくことを誓うものです。

どうぞ、今後ともご指導、ご支援を賜りますよう広くお願い申し上げます。